加茂が生んだ異色の日本画家

Ryubi Hashimoto


藤 の 崖

橋本龍美

 子供のころ裏の山道の崖に蔓枝から下がった淡紫色の藤の花々が、初夏の入口の風にゆれていました。
 夢中だった凧揚げにも飽き、近所の悪童たちとこの崖の下道を登り、明神さまの裏山に行きました。草いきれの杉の樹間にウルシ、タラの木、ツバキ、ナナカマド、伸びたコゴミ、スゲ、山イチゴ、ドングリ、ササ竹、桑の実、グミ。

 伸びすぎた下草をとり、雑木を切って相撲の土俵造りをしました。皆、スッポンポンになり、蔓草とスゲを腰に巻きつけ、古式にまねてぶつかりあって遊びました。三十人くらいの童でした横綱はいません。大関、関脇あたりが最高でした。

 この場所の奥山で戦争ごっこもやりました。崖に生える格好な雑木を選び小刀で丹念に細工して短刀、長刀も作り合いました。東軍は向こうの山、西軍はこちらの山。大きな軍旗が立ち、ガス大砲(太い竹に穴をあけガス玉を入れ、水を注ぎマッチで点火)の音が樹間や、山向こうにこだましました。

 秋はクリをとり、茸をとり、木枯らしのころには杉っ葉拾い。冬は兎追い、杉の樹間をぬってスキーもしました。

 明神さまの春祭りのお神楽の笛太鼓の音も、この崖をこえて聞こえてきました。サーカス、見せ物小屋の賑いも、またこの赤崖の向こうです。

 秋祭りの花火も藤の木の真上の夜空に咲いて消えました。そんな、こんなの思いがあふれる藤の花です。

(新潟日報より)

 

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